離職証明書に記載する賃金の範囲

事業主から労働者に支払われる金銭等は、「賃金」と「賃金でないもの」があります。

「賃金」は労働保険料(雇用保険料・労災保険料)の算定対象となります。

「賃金」は、「賃金日額の算定の基礎となる賃金」と「賃金日額の算定の基礎とならない賃金」があります。

賃金日額の算定の基礎となる賃金」とは、失業給付の額の算定の基礎となるという意味で、離職証明書に記載すべき賃金となります。

賃金の意義

50401

基本手当の額は、被保険者の賃金に基づいて算定されるので、その定義及び範囲は、極めて重要な意義を有する。

雇用保険法においては、健康保険法、厚生年金保険法における標準報酬制と異なり、賃金変動の実際に即し、正確に労働状態を反映させるため、総賃金制(あるいは実賃金制)をとっており、労働の対償として事業主が労働者に対して支払うすべてのものを賃金としている。

賃金の定義

50402

雇用保険法における賃金とは、賃金、給料、手当その他名称の如何を問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものをいう。

ただし、賃金中通貨以外のもので支払われるものであって、則第2 条で定める範囲外のものはこの限りでない。

 
賃金とは、以下2つの要件を備えなければならない。

事業主が労働者に支払ったものであること

労働の対償として支払ったものであること

後者については、原則として次の要件に該当するものが労働の対償であるとされる。

実費弁償的なものでないこと

恩恵的なものでないこと すなわち、労働協約、就業規則、給与規程、労働契約等によりその支給が事業主に法律上義務づけられている場合及び慣習が慣習法となり又は慣習が労働契約の内容となることによってその支給が事業主に義務づけられているものであること。

なお、雇用保険法による賃金とは、法第4 条第4 項に規定するとおり、名称の如何を問わず労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものをいうのであるが、この場合、労働の対償として支払われるものとは、現実に提供された労働に対して支払われるもののみを意味するものではなく、一般に、契約その他によってその支給が事業主の義務とされるものを意味すると解せられる。

賃金の範囲に算入される現物給与

50403

通貨以外のもので支払われる賃金(いわゆる現物給与)の範囲は、食事、被服及び住居の利益のほか安定所長が定めるところによるすなわち、食事、被服及び住居の利益は安定所長が定めるまでもなく賃金の範囲に算入されるものであり、したがって、食事、被服及び住居の利益が法令又は労働協約の別段の定めに基づくことなく、労働の対償として支払われた場合においても、当該利益(現物給与の利益)は当然賃金の範囲に入るものであるが、その他の現物給与については安定所長が具体的に定めた場合賃金に算入されるものである。

この場合において、安定所長が定める現物給与の範囲は、原則として「法令又は労働協約に支払いの定めがあるもの」について指定する。

現物給与について代金を徴収するものは、原則として賃金とはならないが、当該徴収金額が実際費用の3分の1を下回っている場合は、実際費用の3分の1に相当する額と徴収金額との差額部分は賃金として取り扱う。

実際費用の3分の1を上回る代金を徴収するものは現物給与とはならない。

現物給与の評価

50404

50403 により賃金の範囲とされた現物給与の評価額は、次による。

法令又は労働協約に評価額が定められているときは当該評価額

食事、被服及び住居の利益以外のもので法令又は労働協約に支払の範囲のみが定められ、評価額の定めがない場合は、安定所長が当該事業所の所在地区の市場価格を基準として評価した額

食事、被服及び住居の利益については、法令又は労働協約に評価額が定められていないときは、健康保険法第46条の規定に基づき、都道府県知事が定めた評価額を参考として安定所長が評価した額

 
この場合において、安定所の管轄区域内であっても、例えば、都市地区とその他の地区との物価、家屋の賃貸価格等に著しい差があること等一律の額をもって評価することが不適当であるときは、地区別に評価額を定めることが望ましい。

また、住居を無償で供与される場合においては、住居の利益を得ない者に対して、住居の利益を受ける者と均衡を失しない均衡手当が支給されるときは、住居の貸与の利益が明確に評価されているものであるから、当該額を限度として評価する。

賃金日額の算定の基礎となる賃金

50451

賃金日額の算定の基礎となる賃金は、被保険者として雇用された期間に対するものとして同期間中に事業主の支払義務が確定した賃金とする。

したがって、事業主の支払義務が被保険者の離職後に確定したもの(例えば、離職後において労使間に協定がなされ、離職前にさかのぼって昇給することとなったような場合をいう)は、賃金日額の算定の基礎となる賃金には算入しない。

臨時に支払われる賃金及び3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は賃金日額の算定の基礎となる賃金とはしない。

「臨時に支払われる賃金」の意義

50452

「臨時に支払われる賃金」とは、支給事由の性格が臨時的であるもの及び支給事由の発生が臨時的すなわち、まれであるかあるいは不確定であるものをいう。

名称の如何にかかわらず、これに該当しないものは臨時に支払われる賃金とはみなさない。

したがって、例えば大入袋又は業績手当等の名称で、事業の利益があった都度支払われる手当は「臨時に支払われる賃金」に該当する。

「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」の意義

50453

「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは算定の事由が3か月を超える期間ごとに発生するものをいい、通常は実際の支払いも3か月を超える期間ごとに行われるものである。

同一の性格を有する賃金の支払回数が通常年間を通じて3 回以内である場合には、当該賃金は「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するものと判断する。

したがって、例えば年2 期の賞与等は「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当する。

 
単に支払い事務の便宜等のために年間の給与回数が3回以内となるものは「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当しない。

したがって、例えば通勤手当、住宅手当等その支給額の計算の基礎が月に対応する手当が支払の便宜上年3回以内にまとめて支払われた場合には、当該手当は賃金日額の算定の基礎に含まれることとなる。

 
「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」であるか否かについては同一性質を有するものごとに判断する。

したがって、例えば、名称は異なっても同一性質を有すると認められるものが年間4回以上支払われる場合は賃金日額の算定基礎に含まれることとなる。

しかし、例えば燃料手当と年末賞与のように支給されるものの間に同一性が認められないものが形式的に年間計4 回以上支払われたとしても賃金日額の算定基礎に含まれることとはならない。

 
3か月を超える期間ごとに支払われることが客観的に定められている賃金が実際の支給に際し事業主のやむを得ない事情等のため例外的に分割支給されたときは、その結果として3か月以内の間隔で支払われることとなったとしても賃金日額の算定基礎に含まれることとはならない。

「特別の賃金」の意義

50454

毎月きまって支払われる賃金(日給、週給等1か月に満たない期間ごとに支払われる賃金を含む)以外の賃金のうち、算定事由が3か月以内の期間ごとに発生するものを「特別の賃金」という

なお、被保険者期間が1年未満のため、支給実績が年3回以下の場合は、労働協約、就業規則等によって年間を通じ年4回以上支給されることが明示してあるときに限り、「特別の賃金」に該当する

「特別の賃金」の賃金日額の算定方法については50610 参照

賃金と解されるものの例

50501

休業手当

 労働基準法第26条の規定に基づく休業手当は、賃金と認められる労働争議に際して、同一の事業所の当該争議行為に参加していない労働者の一部が労働を提供し得なくなった場合に、その程度に応じて労働者を休業させたときは労働基準法第26条の休業手当の支払義務はないが、その限度を超えて休業させた場合は、その部分については、休業手当の支払義務があると解されている

 したがって、その限度を超えて休業させたものであれば、その部分に対して支給される手当は賃金となり、また、その限度内で休業させたときに支払われる手当であれば、恩恵的なものとして、賃金とはならないと解される

有給休暇日の給与

 有給休暇日に対して支払われる給与は、賃金である

住宅手当

物価手当又は勤務地手当

健康保険法に基づく傷病手当金支給前の3 日間について事業主から支払われる手当

 従業員が業務外の疾病又は負傷のため4 日以上勤務に服することができないため、健康保険法第45条の規定に基づく傷病手当金が支給されるまで3日間について支払われる手当金は、賃金と認められる

 ただし、50402 のロの(ロ)に該当するものに限る

健康保険法に基づく傷病手当金支給終了後に事業主から支払われる給与

 ただし、50402のロの(ロ)に該当するものに限られる

さかのぼって昇給したことによって受ける給与

 さかのぼって昇給が決定し、個々人に対する昇給額が未決定のまま離職した場合において離職後支払われる昇給差額については、個々人に対して昇給をするということ及びその計算方法が決定しており、その計算の結果が離職時までにまだ算出されていない場合にも、事業主としては支払義務が確定したものとなるから、賃金と認められる

(離職後に決定された給与については、50503 のハ参照)

通勤手当

日直、宿直手当

単身赴任手当

 転勤を命ぜられ転勤先事業所に住居がないため単身で赴任し一時的に家族と別居する場合に支払われる手当は、賃金と認められる

受験手当及び転勤休暇手当

 勤務先の業務に関連する試験を受けた場合に支払われる受験手当及び転勤に要する期間中について支払われる転勤休暇手当は、実費弁償的なものであれば賃金としないことは当然であるが、日給者については、定額賃金の支払われない日について、それらの手当が支払われる場合であって、その額が労働した日に支払われていた定額賃金とほぼ同程度であるものは、賃金と認められる

争議解決後に支払われる基準賃金の増給

 争議解決後において、事業主と労働組合との間において締結された協定書に基づき、基本給に加算して支払われる増額分は、賃金と認められる

不況対策による賃金からの控除分が労使協定に基づきさかのぼって支払われる場合の当該給与不況対策として、事業主と労働組合との間に締結された協定に基づき、組合員に支払われるべき賃金から権利留保として控除されていた部分について、労使協議に基づいてさかのぼって支払われる金員は、賃金として取り扱う

食事の利益

 食事の利益は、賃金とされる

 ただし、食事の提供に対して、その実費相当額が賃金から減額されるもの及びたまたま支給される食事等、福利厚生的なものと認められるものは賃金日額の算定の基礎に算入しない

 なお、食事の利益(住込労働者で1日に2食以上給食されることが常態にある場合を除く)については原則として、次のすべてに該当する場合は、賃金として取り扱わず、福利厚生的なものとして取り扱う

 ・給食によって賃金の減額を伴わないこと

 ・労働協約、就業規則に定められるなど、明確な労働条件の内容となっている場合でないこと

 ・給食による客観的評価額が社会通念上僅少なものと認められる場合であること

被服の利益

 被服の利益は、賃金とされる

 ただし、労働者が業務に従事するため支給する作業衣又は業務上着用することを条件として支給し、若しくは貸与する被服の利益は、賃金日額の算定の基礎に算入しない。

住居の利益

 住居の利益は、賃金とされる。ただし、住居施設を無償で供与される場合において、住居施設が供与されない者に対して、住居の利益を受ける者と均衡を失しない定額の均衡手当が一律に支払われない場合は、当該住居の利益は賃金とはならない。

 寄宿舎等が設置されている場合、入寮者が受ける住居の利益は、実際費用の3分の1を下回って入寮費が徴収される場合に限り、実際費用の3分の1と徴収金額との差額を賃金として評価することとし、入寮費として実際費用の3分の1以上が徴収される場合は、賃金日額の算定の基礎に算入されない。

 食事、住居の利益の評価に当たっては月額相当(1月を30日とする)として定めることとし、被服の利益の評価は、その利益が毎月供与されるものであるときは、月額相当額により定めるものとし、その他の場合はその都度評価する。

賃金と解されないものの例

50502

休業補償費

 労働基準法第76条の規定に基づく休業補償費は、無過失賠償責任に基づき事業主が支払うものとされており、労働の対償ではないので賃金とは認められない。

 なお、休業補償の額が平均賃金の60%を超えた場合については、その超えた額を含めて賃金とは認められない。

傷病手当金

 健康保険法第45条の規定に基づく傷病手当金は、健康保険の給付金であって、賃金とは認められない。

 また、標準報酬の6割に相当する傷病手当金が支給された場合において、その傷病手当金に付加して事業主から支給される給付額は、恩恵的給付と認められるので賃金とは認められない。

工具手当、寝具手当

 一般的に実費弁償的性格のものであって、賃金とは認められない

チップ

 チップは接客係等が、客からもらうものであって賃金とは認められない

 ただし、一度事業主の手を経て再配分されるものは賃金と認められる

脱退給付金付き団体定期保険の保険料

 福利厚生と認められるので、賃金とは認められない

会社が全額負担する生命保険の掛金

 従業員の退職後の生活保障や在職中の死亡保障を行うことを目的として事業主が従業員を被保険者として保険会社と生命保険等厚生保険の契約をし、会社が当該保険の保険料を全額負担した場合の当該保険料は、賃金とは認められない。

解雇予告手当

慰労金

 業績躍進特別運動を行った後、運動中の従業員に対して支給される慰労金は、その支給が事業主に義務づけられていない場合は、賃金とは認められない。

安全衛生表彰規程に基づく個人褒賞金

 安全衛生表彰規程により、支給される褒賞金であっても、稟申基準に該当し褒賞対象として申請してもその決定が常務会等の裁量行為となっている場合は、一定期間に一定以上の成績をあげれば褒賞金が支給されるという期待とその可能性が不明確であり、恩恵的給付であると認められるので、賃金とは認められない。

勤続褒賞金

 勤続年数に応じて支給される勤続褒賞金は、一般的には、賃金とは認められない。

外国駐在員に対して支払われる外地給与

 外地給与は賃金とされるが、当該外地給与がその者が日本国内において勤務する場合に通常支払われるべき給与の額(昇給が定期的に行われる者については、その昇給分を含めて差し支えない)を超えて支払われる場合は、その超過額に相当する額については、通常実費弁償的な性質を有するものと考えられるので、賃金とは認められない。

 なお、日本在住の本人の扶養家族に支払われる内地給与も賃金であり、この内地給与と外地給与が併せて支払われる場合には、その合計額につき、前記に準じて取り扱う。

賃金日額の算定の基礎に算入されないものの例

50503 

退職金

 労働者の退職後(退職を事由として、事業主の都合により退職前に一時金として支払われる場合を含む)に一時金又は年金として支払われるものは、賃金日額算定の基礎に算入されない。

 ただし、退職金相当額の全部又は一部を労働者の在職中に給与に上乗せする等により支払う、いわゆる「前払い退職金」は、臨時に支払われる賃金及び3か月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当する場合を除き、原則として、賃金日額の算定の基礎となる賃金の範囲に含まれるものである。

退職日後の給与

 月給者が月の中途で退職する場合に、その月分の給与を全額支払われる例があるが、この場合、退職日の翌日以後の分に相当する金額は賃金日額の算定の基礎に算入されない。

離職後に決定された給与

 例えば、離職前までさかのぼって昇給が行われることが離職後に決定した場合のその追給分は賃金日額の算定の基礎に算入されない。

海外在留者に対する海外手当、在外手当

財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金等

 労働者が行う財産形成貯蓄を奨励援助するために、事業主が一定の率又は額の奨励金等を当該労働者に支払ったときは、その奨励金等は、事業主が労働者の福利増進のために負担するものと認められるから、賃金日額の算定の基礎に算入されない。

 また、労働者が持家取得のため、金融機関等から融資を受けた場合において、事業主が一定の率又は額の利子補給金等を当該労働者に支払ったときは、その利子補給金等も同様に取り扱う。

祝金、見舞金

 結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等個人的臨時的な吉凶禍福に対して支給されるものは、賃金日額の算定の基礎に算入されない。

祝祭日・企業創立記念日に特別に支給される給与

法定外有給休暇の買上げ

 支給事由の発生が臨時的あるいは不確定であるので、労働協約、就業規則等に買上げの明記がある場合であっても、「臨時に支払われる賃金」として取り扱う。

争議解決後に支払われる一時金

 50501 のヲにより賃金と認められるものであっても、臨時的突発的事由に基づいて支給されるものであるので、「臨時に支払われる賃金」として取り扱う。

特別の取扱いをするもの

50504

賃金に関して特別の取扱いをするものの例は、次のとおりである

通勤定期券

 その券面金額の全額(一部を労働者が負担したときは、その負担額を控除した額をいう)を賃金とする。

 この場合定期券の支給があった月にその金額が支払われたものとして取り扱うなお、本来、月ごとに支給すべきものを、便宜上数か月をまとめて支給した場合には、支給された定期券の券面金額の全額をその月数で除して得た額がその月ごとに
支払われたものとして取り扱うこの場合に生じた端数は、その最後の月にまとめて支払われたものとして取り扱う。

社会保険料、所得税等の労働者負担分を事業主が負担したもの

 事業主が社会保険料、所得税等の労働者負担分を労働協約等の定め(詳細は50402 のロの(ロ)参照)によって義務づけられて負担した場合には、その負担額は賃金と解される。

外務員の歩合給

 歩合給とは、賃金の出来高払制における賃金支払の一形態であって、賃金であることはもちろんであるが、保険会社等における外務員の歩合給については、その把握が困難な場合が多いので、賃金台帳、所得税申告書、給与明細等によって確認され得るものに限って賃金として取り扱う。

外務員等の実費弁償的賃金

 販売、契約、集金のため、外務員を使用する生命保険会社等の事業にあっては、通常、事業主は外務員等が支出する旅費等の費用に充てると称して契約高などに応じ勧誘費、集金費等の名目で支払っているものがあるが、これは、当該外務員等が支出する旅費等の費用の如何にかかわらず、労働の対償として契約高などに応じて支払われるものであり、たとえ、勧誘費、集金費等の費目を単に就業規則、労働協約その他労働契約等で実費弁償的賃金である旨の定めをしていても、実費弁償の部分について明確に算定できないものであるから、賃金日額の算定の基礎となる賃金として取り扱う。

 ただし、臨時に支払われる賃金又は3か月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当するものは賃金日額の算定基礎から除かれることとなる。

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